今週最大のニュースは、何といっても英国のEU離脱に関する国民投票となりました。
今回の離脱を決した投票により、現在世界でもっとも代表的と捉えられている、ロンドンのFintechハブとしてのNo.1の地位がなくなるのでは、という議論がなされています(この記事など)。
その一番大きな要因としては、シングルパスポートの喪失が挙げられます。これまでEUの一部であった英国では、英国における送金業等のライセンスを受けると、そのステータスを欧州中で適用できました。その結果、英国でTransferwiseに代表されるような送金サービスを作れば、一気にエストニアやドイツ、北欧など、実に様々なマーケットへの展開が可能となりました。
そのためスタートアップ側も、たとえば東欧やドイツの人材であっても、敢えて制度的な支援が手厚いロンドンにおいて創業する、という循環が生まれていました。
もう一つの理由であり、上記の動きを補完していたのが労働力の自由な移動になります。欧州では、欧州連合基本条約に基づく労働者の移動が、生産性の高い産業を裏で支えてきました。エンジニア人材も欧州中から集まっていた中、大手のスタートアップでは、自国エンジニアが多数というチームは少ないようにすら思われます。今後は、現状の米国のように、ビザ支給のハードルが発生するとなると、顔を合わせて働きたい人たちのビジネスハブとしての機動性は大きく薄れていくことが考えられます。
また、個別の議論は沢山ありえるものの、たとえばPSD2において問題提起されてきた様々な議論の潮流が変化する可能性もあります。英国は、Open Banking Standardを打ち出すなど、PSD2で規定されているオープンなデータアクセスへの道筋をいち早く展開してきましたが、今後は、英国と欧州が、別のスピード感で、このテーマへの取り組みを進めていく可能性もあります。
仮に離脱した場合であっても、様々な緩和策を通じて、このような側面への配慮は図られていく可能性はあります。また、上記の移動に関する協定のみを高度人材以外に限定し、シングルパスポートを何とか残す動きも生まれうるかもしれません。
翻って、次のEU内のハブはどこになるのでしょうか。金融市場の規模としてはフランクフルトないしパリが、ユニコーンの所在的にはストックホルムが挙げられますが、これらの都市ではまだ、国外プレーヤーに対しては限られた活動しか見られていないのも実情です。
大局観的な英国のあり方に多くは依存することとなるものの、金融市場とFintechへの期待値を維持しようとする、今後の政策が注視されるところでもあります。
今週の読むべきニュース
イングランド銀行によるアクセラレータ開設
6月16日に開催された英国の中央銀行であるイングランド銀行のカーニー総裁によるスピーチにおいて、同中銀がFintechのアクセラレータを開設することが述べられています。
ここでは、パブリックデータの活用、様々なデータ分析の可能性に加えて、セキュリティリスクやオペレーションリスク管理の高度化に向けた可能性があるものと述べられています。